2009年05月26日

ユカリ 由香里  第3章  超能力

  ぼくの手元には『超能力読本』があった。
  ページをめくっていく。サイコテレキネシス、テレパシーなどの項目があって、気になる人物のところで、動かしていた手が止まった。彼の名は『エドガー・ケイシー』といった。
  いつもの図書閲覧室。土曜の午後、そこは満員の盛況で、まわりには静かにペンを走らせたり、参考書をめくったりしている中高生が多い。
  エドガー・ケイシー。アメリカ南部出身…“バージニアビーチの賢人”、あるいは“アメリカの聖者”とも呼ばれる。彼は病気にかかり、うとうとと眠っているあいだに天の声を聞いた…アカシックレコードを読み取る力があったといわれている、等々…。
 「アカシックレコード」とは、大昔から人間の想念波動が蓄積され、宇宙区間に記録されているという未知の物体のことであった。
  ぼくは、「そうか、歴史のCDか」などと、ひとり勝手に解釈した。ぼくがそんな作業にいそしんでいたのはもちろん理由がある。ユカリの予知能力について知りたかったからだ。第二回の私大模試まであと一週間。それも気がかりだが、彼女のことはもっと気になる。
  ケイシーのほかにも予言者はいた。ジーン・ディクソン、ミシェル・ド・ノストラダムス、日本の出口王仁三郎(でぐち・わにさぶろう)…。あのイエス・キリストも、はたまたアドルフ・ヒトラーでさえも予言を残しているという。
  ぼくは超能力者ではない。幽霊もUFOも見たことがないし、スプーンのひとつも曲げたことがない。時たま『保坂麗子の大霊視』なんていうTV番組を興味本位でのぞく程度だった。それが、ユカリの異常な言動を目の当たりにしてから、がぜん食指が動いている。
 「以前はあんなことなかったのに、変ねえ」
  彼女の母親はそう漏らしていた。となると、あの事故が引き金になっていると考えた方がいい。
  未来が見える・・・それが幸福でありがたいものだったのなら、何千回でも“お告げ”してもらいたい。しかし、逆の場合、耳に栓をしてでも聞きたくないんじゃないか。
  占星術、タロットカード、水晶玉…、さまざまな占いがこの世にはある。もちろん、満足な能力もないくせに、客に高いキャッシュを要求する「エセ占い師」もいるだろう。予言者のなかには、世のため人のために使っていた能力を己のためだけに向けた途端、ばったりと“お告げ”が途絶えた者もいるという。
  未来を見る、ということは、勇気がいるし、気恥ずかしさがともなうものではないか。
  風呂屋の番台ごしに女湯をのぞくようなものだ。「ああ、いいぞ」と思っているところを、「お客さん」と、とがめられるような。それにそこで見られるのは、うら若い美人だけとはかぎらない。
posted by はむじの書斎 at 17:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月24日

ユカリ 由香里 第2章  予言2

  ブーン・・・。
  扇風機がうなる音だけがした。
 「へんっ、何をいい出すのかと思ったら、そんなことかよ」
  啓は馬耳東風のふりをした。彼のこめかみをひとすじの汗が伝っている。それは暑さのために噴き出たものではなかった。
 「ユカリ、そろそろお家にもどろっか」
 そのとき、彼女の顔からはとぎすまされた妖しさが消え、いつもの感じになっていた。この場の粟立つような空気をぬぐい去るには、ユカリに退室してもらうよりない。
  彼女は「うん」と、素直にうなずく。ぼくは放心状態の啓の顔を見て、玄関まで小さな背中を押した。
 「どうしてあんなこと、いったんだい」
 つとめて軽い調子で尋いた。
 「うーん、よくわかんないけど、だれかがそっとおしえてくれたの。この前もそうよ」
 「ああ、きのうの交通事故のことか。でも、人前でそんなことをべらべらしゃべっちゃうのはどうかな。もうちょっとおとなになったらわかると思うけど、言っていいことと、悪いことがあるんだよ」
 少女はぼくから視線をそらし、無言のままうなずいた。おとなりの扉を開ける。
 「まあ、うちの娘が…。いつもいつもすいませんね」
 くだんの件を知らない森山家の母が、奥様ことばで愛想をふりまく。
 「はい、おにちゃんどうもありがとう、って」
 母は、こちら向きになった娘の頭をつかまえて、ぺこりとお辞儀させた。
 「それじゃ、おやすみなさい」
 ぼくも一礼して玄関扉を閉めた。
 “事件現場”に戻ると、啓はしらけたような顔をして深く一服していた。
 「まいっちゃったなー、あのひと言にはよ…」
 「気にするな」
 ぼくは繕ったようにいった。
 「おれ、帰るわ。クルマ置いていってもいいだろ?]
 通常だったら引き止めて、「泊ってけよ」というところだが、
 「そうか、しょうがないな。今晩は家まで送るぞ」
 と、ぼくは返して、電車内は別だったが、いざという時に盾になれるような姿勢で道を歩いて行った…。
 
posted by はむじの書斎 at 20:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月23日

ユカリ 由香里 第2章  予言1 

  実はおとといの晩、ユカリが来たとき、彼女はどっきりすることを言った。
 「明日の朝、この近くでおおきな交通事故がおきる…」
  彼女はそれを、酔ったような状態でいったのだった。
  きのうの新聞の夕刊に目を通すと、その大事故が報じられていた。
  ここから1キロほどしか離れていない市道で、路線バスとタンクローリーとがぶつかり、バスは2台の乗用車を巻き込んで、電柱でやっと止まった。タンクローリーは塩酸を満載していて、流出したそれは刺激臭をあたりにばら撒いた。おまけに、バスの乗客だった76になる老女が一人亡くなり、計25人が重軽傷を負ったというのだ。朝、8時前という通勤通学ラッシュの時間帯が災いしたようだ。
  その時ぼくは、どうにか夢から醒めようとしていた。
  やけにどこかでウーウーうるさいな、と、寝返りを打ちながらそれをうすぼんやりと聞いていただけだった。しかも行きつけの図書館は、この家をはさんで事故現場とは反対側にある。とんだ情報音痴になっていたものだ。そして「まさか?!」と、背筋が冷たくなった。
  そしてきのうの朝もユカリは「予言」した。
 「きょうの夕方、しつこい新聞のおにいさんが来る」
  すると本当に〇〇新聞を名乗る勧誘員が午後の7時ころ来訪して、玄関口で彼女の母相手に20分以上もねばった。結局、彼女はその新聞と一年契約のハンコを押してしまったという。
  ぼくはユカリの予言がぴたり当たった、という話をしようとした時。
 “発作”が、またしても少女をとらえた。
  ぼくの横でおっちゃんこしていたユカリは左右に激しくかぶりを振った。そのあと、座ったままうつらうつら状態になり、そしてようやっと目をあけた。
  その様子は、いつか見た古いオカルト映画のワンシーンのようだった。
  彼女の右人差し指は、いきなり啓の方をさした。
 「おにいちゃん」
  黒曜石のように光る瞳が彼を射抜く。
  あまり物怖じしないはずの啓がすこし度肝を抜かれて、10センチほど後方にのけぞった。
  ユカリの様子は、この前見たのより数段不気味で、美少女を通りすぎて妖少女のようだった。
  あわてふためいた点では、ぼくも同じだ。「悪魔憑きではないか」と、本気で疑った。
  彼女の腕は水平に啓に向いたまま、凝固している。
 「おにいちゃん。一週間以内に死ぬわ。交通事故で…」
  それは、まだあどけない5歳の少女の台詞ではありえなかった。30度近い部屋の温度が、一気に氷点下になった気がした。
ラベル:どっきり
posted by はむじの書斎 at 15:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月22日

ユカリ 由香里 第2章 落下の理由(わけ)

  5歳の少女・森山ユカリは、母親がちょっと買い物で出払ったすきに、何を思ったか、玄関を出た。廊下の欄干に黄色っっぽいアゲハチョウがひらひらしているのを見つけ、それを追いかけるうちに自分の家の玄関前にあったポリバケツを逆さ向きにして動かして飛び乗り、欄干上を綱渡りした。
  その数秒後、小さな体は宙にダイブしていた。
  彼女はその後、駐輪場の波打ったスチール製の屋根でワンバウンドし、放物線をえがいて植え込みにキャッチされたのだった。
  ユカリにさいわいしたのは、一方の手に『ミミちゃん』を抱えていたことだった。そのウサギのぬいぐるみは落下したショックで首がちぎれてしまったが、ミミちゃんは大役をやってのけた。屋根の上で彼女との間にサンドイッチ状態になり、ユカリにすりきず二ヶ所を提供しただけに終わらせた。その後の病院の検査でも、「どこにも異状なし」と出た。
  顔こそ出なかったが、ユカリの事件は当夜、TVの全国版ニュースになった。彼女は「5歳の少女」になっていた。
  現場から森山家に舞台を移しておこなわれた警察の事情聴取で、彼女の母はこってりと脂をしぼられた。ダイブした当人が幼稚園児では、無理もないことだ。
  母親の真理は、この街の歯科医院で衛生士の仕事をしている。まだ養育費と親権でもめている相手、つまりユカリの実の父親は、歯科の開業医だった。彼は埼玉にいるらしい。彼女は土曜の一部と日曜を除いた毎日、夕方の6時過ぎにクルマでユカリを迎え、自宅に連れ帰った。
 「子は親の鏡」なら、ユカリは犠牲者もいいところである。
 まだ幼いから、そのへんのオトナの詳しい事情はわからないだろうが、親同士のいさかいに巻き込まれ、しかも新天地に引っ越してきたばかりでは、精神状態も不安定になっていただろう。そのようなことがアゲハチョウを追いかけているうち、下におっこちてしまった背景にあるようだ。
ラベル:ミミちゃん
posted by はむじの書斎 at 21:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月21日

ユカリ 由香里 第2章 訪問者

 「こんちは、耕ちゃん。あれ?!  だれかきてるの」
 不意の訪問客は、まだ5歳のうら若い女性だった。首がつながって全快した『ミミちゃん』を、小脇にかかえている。
 ユカリはだーっと上映中の部屋に入ってきた。悪友はDVDをすぐに切るべきだった。黄色のワンピース姿の少女は、まじまじと画面を見つめたのち、発言した。
 「あっ、これ知ってる。アダルトビデオっていうんでしょう」
 ぼくは小宴会のテーブルからリモコンをひったくって、画像を通常の地上波放送にもどした。
 八畳分の広さの洋間は、啓の吸ったタバコの煙で充満していて、それもユカリの教育上良くなかった。
 彼女は、「わあ、くさーい」と、自分で鼻をつまんだ。
 「あれま、こんばんは、お譲ちゃん。お名前は?」
 気まずさをひとかけらも見せず、啓があいさつした。
 「ユカリよ。おぼえてね」
 彼女は立ったまま得意のポーズをとった。そのふるまいが実に絵になってかわいい。
 「ひょっとして…?!」
 「そう。五日前、渡り廊下の欄干からおちてミラクルパワーで助かったんだもんねー」
 ぼくは彼女になりかわって説明した。
 「みらくる、みらくる」
 舌たらずの発音で、そうつぶやいて、ユカリはぼくの横におっちゃんこした。三度目の来訪である。  
ラベル:悪夢の始まり
posted by はむじの書斎 at 12:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月20日

久しぶりの日記  プロ野球などを

  ことしは阪神ファンを休止して、日ハム応援してます。
  きのうは16-6。今日は競った試合をものにしました。
  チーム打率300ですよ。300。
  打撃がすごいじゃないですか。しかもジャイアンツ相手にですよ。
  家が札幌ドームに近いのと、ハンネが「ハムじ〜」なんで。

  ネット小説界に中1男子が鮮烈にデビューしたそうで。
  こちとら、17年前の旧作をリメークして、ホネ折って掲載中だってのに。
  彼の作品にはまだ、目を通してません。
  ただ、デビューが早いと、枯れるのも早いんじゃないかって想う。
  きのうは性描写のカキコでした。当時は「ビデオデッキ」だったのを「DVDプレイヤー」に書き換えたりして。

  BGMをRCサクセションからキョンキョンに変えました。
  RCのキヨシローは惜しい命を散らし、キョンキョンも離婚しています。
  「結婚式」はあっても、「離婚式」がない不思議さ。
  私はまだ独りですよ〜。「婚活」してみようかな。
posted by はむじの書斎 at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月19日

ユカリ 由香里 第二章  エロビデオ

  話がだいぶ飛躍した。今夜のぼくは、ひと足先にキャンパスライフを満喫している啓の来訪を受け、酒盛りをしている。
  ぼくがコミック文化について理屈をこねまわすと、
 「何をそんな面倒くさいことを考えてるんだ。マンガもTVゲームも結局面白いから、みんな読んだり、遊んだりしてるわけだからさあ」
 「しょうもないことを言うな」。派手派手のアロハシャツの相方は要は煙たがっていた。
 「そうかなあ、何もみんな考えなくなっちゃったら、全員ロボットになっちまうぞ」
  啓にも自分の価値観を共有してもらいたかった。ほんとは。
 「むずかしいことは言いっこなし。今宵は飲んでさわぎましょう」
 「お前なあ、相棒の身の上をすこしは案じてくれよな」
 四日前、森山宅での破戒から、ぼくは「浪人生」だということを忘れかけていた。意志の弱さじゃなくて、異常気象と啓のせいだ。
  冬はコタツの役目もする卓上で、啓は三本目の缶ビールのふたをあけた。ぷしゅっ、という音が部屋に反響する。
 「わかってるって、女日照りの宅浪生クンよ。だからね、きょうは君のためを思い、DVDをダビングしてきてあげましたよ。ジャジャジャーン」
 啓はナップサックからそれを二枚とりだした。すかさず一枚をプレイヤーの口にすべらせた。
 『桃色日記〜あえぎたい二十歳』。
 ブルーのタイトルが出て、すぐに絡みのシーンになった。そのAV嬢は、男優のパンツを引きずりおろし、「それ」を指でこねまわし、つづいて口で・・・。あとはみんなのご想像にまかせるとしよう。「裏もの」ではなかったので、肝心な部分はカーテンの向こうだった。
 「ああ、たまりません、後宮優ちゃん」
 操作のリモコンを手放した啓は勝手に昂奮していた。そんなぼくは彼とディスクの動きを止めもせず、画面に喰いいった。
 「ここがいいんだなあ。何発いかせてもらったかわかりません」
 啓は今にも自慰を始めそうな雰囲気である。彼もぼくもすっかり夢中になっているところに呼び鈴が鳴った。
 「ちくしょう、いいとこなのに。誰だ、こんな時に」
 くやしがる啓。来訪者が誰だか、ぼくにはおおよその見当がついた。
ラベル:エロス
posted by はむじの書斎 at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月18日

ユカリ 由香里  第2章 2

  しかし、捨てる神あらば拾う神あり。次の学年では、栗田先生という恩師に出会った。若くて美人でもあった先生は国語、いや文学というものの楽しさを教えてくれた。(先生はクラスの誰からも好かれていた)。ぼくや、ほかの、特に男子生徒は、よく職員室の先生の机を訪れた。
 「これを読んでみなさい。ためになるから」と、先生から渡されたのは、現代語訳付きの『徒然草』だった。ぼくはしばらくそれを学生かばんの中に入れておき、ことあるごとに読んだ。あの年代としてはちょっぴりむずかしい用語もあったが、兼好法師の、時代を超えたメッセージは、今でもぼくのなかに生きつづけている。
 「活字ばなれ」なんていわれている。娯楽の種類が百花繚乱だから、たいくつな活字のページめくりが、特に若い層に敬遠されているのだろうか。
  コミックは「画」でもって、おもに架空世界を描きだしている。「ドカッ」 「バキッ」 「ワーッ」などなど、派手なつくり文字のオンパレードと“ふきだし”のなかの貧弱なセリフのかずかず…。画になっているから、読者は物語を視覚を優先させておぼえていく。「想像力」はあまり要らない。当然、「行間を読む」ことはしなくなる。活字とマンガでは脳ミソを使う点では、月とスッポンほどの差がありそうだ。
  TVゲームだって同じだ。あらかじめプログラミングされているから、基本的には敷かれたレールの上を走っていくのと変わりがない。RPG(ロールプレイング・ゲーム)と呼ばれるものはたったひとつの、前もって決められた結末に向けてゲームが進む。プレイヤーはクライマックスに到達するまでにどんな過酷な戦いがあろうと、傷ついたり死んだりすることはない。やることは指先の「カチャカチャ」だけだから、体力だってあまり使わない。
  現代の商業主義は、子供たちから戸外で遊ぶこと、会話すること、そして「想像力」と「創造力」を奪いとることに成功したのだ。
  巨大な、目には見えない蛾の幼虫が、この国の文化という葉を喰いつくしたとき、上空には一匹のモスラが舞うだろう。その翅(はね)にはこう書いてある。
 「破滅」
  と
ラベル:国語の先生
posted by はむじの書斎 at 20:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月16日

ユカリ 由香里  第2章 1

  大学生になりそこねた人間のひがみに聞こえるかも知れないが、何かが間違っている、と思う。
  同郷の奴らも、また、予備校の今年めでたく卒業した奴らもけっこういい大学に行ってるし、専門学校に進んだのも多い。
  たとえば四年間を、勉強は無難にこなし、どこかのサークルに属して仲間と適当にわいわいやって、後半になったらお決まりのリクルータールックで就職活動をする・・・。大学の四年間なんてのは、社会に出る前の一種の執行猶予期間で、そこは勉強よりも、むしろ遊びを身につける遊園地のようなものである。これは誰だったか、評論家の請け売りだ。
  予備校時代、ふとしたきっかけで知りあった、同郷の岡島啓(おかじま・ひらく)なんかは、第一志望の大学でシーズンスポーツのサークルに入って、「わが世の春」を謳歌している。
  奴に意見するつもりはないが、ぼくはそんなキャンパスライフを夢見ているわけじゃない。ことし受験したのは社会学部と文学部だったが、来年は「文学部」一本にしぼろうと思う。
  コミックもTVゲームも好きだが、それ以上に好きなのが読書で、好きな作家もいる。自室の壁約4分の1は書棚だ。
  中学1年のとき、嫌いな国語教師がいた。(その教師はクラスのほぼ全員から嫌われていた)。今思えば学者肌の教師だったのかも知れないが、陰湿な性格で、陰気に彼は授業した。
  ある日の夜、ぼくは自宅でノートの片隅に、その教師の名を「〇〇め」と大書きしたのだった。翌日、ぼくはそのことをすっかり忘れて、ノートを開いたまま彼の授業を受けていた。それを机の間を巡回中の彼に発見されたものだから、さあ大変。
  彼曰く、「君、そんなに私が憎いか?」。おまけにその授業の最後で彼は、「君たちのなかで私のことを誤解している人がいる」と、よそよそしく言った。
  ぼくはその中学最初の定期テストで零店を意識して取ったし、授業中の小テストでも、わざとふざけた解答をした。とうぜん、国語という教科は嫌いになった。あの時は「もう国語は好きにならないだろう」と、ぼくはあきらめていた。
ラベル:学生生活
posted by はむじの書斎 at 14:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月15日

ユカリ 由香里  序章6

  ひさしぶりの家庭料理を腹いっぱいごちそうになり、おまけに禁酒の戒めを破った効果で、すっかり眠たくなっていた。
  午後9時。部屋に引きあげたぼくはTVをつけた。
  プロ野球はもう終わっていた。ひいきチームの予告先発はエースのDだったので、彼は調子のいい時の快刀乱麻のピッチングで、相手チームのバッターをはやばやと料理してしまったのかも知れない。
  まあ、今夕の試合結果はケータイのウェブサイトででも後で確認してみるとしよう。
  ことしになってから「ドラマ」はまったくと言っていいほど観ていない。
  恋愛にせよ何にせよ、ただのゲームに終始しているからだ。同年齢ぐらいの美男・美女が出版社なんかのこぎれいなオフィスでそれなりに仕事したりして、どちらかに恋のライバルができたりなどして、最後にどんな形にせよ思いを遂げてハッピーエンド…。制作側の熱意はさっぱり伝わってこない。
  すっかり眠りこんで、目をあけて時計を見たら、午前3時過ぎだった。Tシャツのすそはめくれ上がっていた。TVからは、ザーッという波音。いつまでそれを観ていたのだろう。
  今宵も熱帯夜のようだった。汗でぬれた肌になまぬるく、湿った空気が気持ち悪い。
  カーテンをはぐって、窓を全開する。5階のベランダごし、はるか遠くに都心の夜景があった。超高層ビルのてっぺんで、赤いランプがコマ切れに点滅していた。 
ラベル:眠気
posted by はむじの書斎 at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
RSS取得
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。