2009年03月12日

アディクション 第2章  演説

  「よく聞いてよねー」で始まった演説は、その後三分ぐらい続いた、と思う。
  「全国一千万のギャンブル党のみなさん、こんばんわ。私は世界魔女協会日本支部・副部長、リナです。私たちがついに立ち上がる時がきました。さしたる収入もないのにパチンコ・パチスロ・競馬・競艇・競輪にかまけている皆さん! 私たちは今回パチンコ・パチスロから手をつけたんですが、マネー・スプレッドという魔法を使い、胴元の金運を下げて営業できなくしてさしあげましたのよ。おほほ…。特に指摘しておきたいのは矢富健一さんね。ギャンブルで勝ったら収益を指定した口座に振り込むように指示したのに、まだ入金されてないのよねー」
  俺の顔はさぞや間抜けだったかもしれない。逆に髪の毛を頭の頂上付近で縛ったリナという少女の表情は生気にあふれていて、狂気とはかけはなれているように映った。だが、話の中身は唯物的な世間一般の常識から距離があるようだった。
  チャンネルをリモコンを使って変えてみた。
  しかし、どの局にも同じ顔が登場した。自分の気が狂ったのだと思うより先に、右の手のひらで旧式のテレビをなぐりつけた。何ともない。ぴくりともしなかった。
  少女の演説が継続中の画面を消す手段はひとつ・・・電源を落とせばいいのだ。
  プチンとリモコンの操作と同時に画面は暗くなった。
  真夏ではないのに、両のこめかみから汗が筋になって伝わった。途方に暮れる暇もなく、再び画面が明るくなった。
 「今回のはほんの警告なのよね。私たちが本気を出せば、株式市場も暴落させられるし、経済をマヒさせるのも簡単なことよ。世界中にはりめぐらされたコンピューター・ネットワークもまるで無意味。お茶の子さいさいでひねってあげるわ。最後に矢富さん、お金振り込んでよねー」
  画面は元のニュース番組に戻った。
  しかし、俺の汗は退くどころか、ますますじとりとしていくばかりだ。
  今の“放送事故”を何万人が見ていたというのだろう。わざわざ自分を指名して『振り込め』と来たもんだ。いい赤っ恥ではないか。それと、どうして自分の家を訪ねずに公共の電波という手段に出たのだ?
  世界魔女協会日本支部・副部長は、バックの組織がいかに強大であり、コンピューターなどは屁でもないと言っていた。やれるならやってみるがいい。有価証券など一枚も持っていないこちらは、それこそ屁でもないぞ。

 
 
 
 
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アディクション 第2章  切歯扼腕

  俺は結局銀行には行かず、終業後にまたパーラー・フェニックスに向かった。
  しかし、まだシャッターは閉められたままだった。「まだなのかよ」とつぶやいて、今度は一軒目だけで退きさがることにした。後から二、三人が出入り口に向かってくるのとすれちがった。
  よく聞き取れなかったが、そのうちのひとりは「えっ!?」と口にしたと思う。
  安アパートの一室に戻ってテレビをつけた。
  ちょうど夕方のニュースの時間で、パチンコ屋が全国で全面休業・・・が大々的に報じられていた。
  原因はコンピューターのシステムダウンだと言っていたが、この街で発生した、いわばボヤが全国に波及して大火になるとは思ってもみなかった。俺も二回連続して勝っただけでいい気になり、今日も再戦しようと脚をはこんだのだ。
  冷水をあびせられたとはこのことだろうが、全国のパチンコ・パチスロファンもさぞや切歯扼腕していることだろう。と思っていたら、テレビ画面がいきなり砂嵐状態になった。それは十秒ほど続いただろうか。画面は物理的に正常に戻った。
  しかしそれは「正常」ではなかった。紫色の幕を背負い、あの少女がひとり登場したからである。 
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2009年03月11日

アディクション 第2章  督促

  俺は紙片を抽斗に戻し、研いでおいた米を炊飯ジャーで炊いた。今晩のメニューはレトルトスープカレーだ。
  20分ほどでご飯は炊きあがり、それに熱湯であたためたカレーを大皿に盛って食べた。美味しかった。考えがまとまった。それは・・・。
 「22万円のうち、9万円を残債処理に充てて、残りは貯金しよう」だった。そして月曜朝。
  8時きっかりに目を醒まし、いつものようにパンにジャムを塗って食べ、靴を履いて玄関を飛び出そうとしたとき。扉を開けると、あの少女が立っていた。
 「やあ、オハヨ」
  右腕を挙げ、明るい口調であいさつしてきた。
  頭巾は被っておらず、髪の毛は下ろしており、前にも増して「妖艶」な印象を受けた。
  ぎくりとして言葉が出ない俺を見透かしたように少女は第二球を投げてきた。
 「やったんでしょ、ギャンブル」
 「………」
 「わかるわよ、言わなくったって。儲けたはずよね。いくら?」
 「今は時間がないんだ。後日ゆっくりってわけには…」
 「いかないわよ」
  黒曜石を思わせる瞳がいっそうきらめいて、俺の脚は止まった。ついでに心臓まで止まりそうになった。そこでささやかながら俺は反撃をこころみた。「君は何者だ」と。
 「私の身分が知りたい? でもあなたの病気と世間にはびこる風潮を正すのが先ね」
  少女の言動は決然としていて、黒主体の服装と相まって一種の迫力があった。そして矢継ぎ早に、「20万円以上儲けたでしょう
 「何が言いたいんだ。それを全額振り込むことか」
 「そうよ、と言いたいけれど22万円のうち2万円は見逃してあげるから、20万円をこの前指定した口座に振り込んでよね」
 「どうして儲けた金額を知っているんだ」とは言わず、かわりに「いつまで」と、かろうじて訊いた。
 「今日中にね、忘れないでね。じゃあ、待ってるから」と、少女はくるりと背を向けた。
 数秒後、かんかんと鉄の階段を降りていく音をうわの空で聞いて、薄気味の悪さも手伝い、職場に向かうのを嫌がる気持ちを叱りつけて、ようやく数分後に俺は出勤していった。 
タグ:超能力
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2009年03月10日

アディクション 第2章 断罪〜

  騒動と葛藤

  実はその日、市内のパチンコ・パチスロ店全店が臨時休業を余儀なくされていた。
  前日の土曜から、五十店近くが売り上げの紙幣が枯れ葉やただの紙切れに化け、その他ほとんどの店がフィーバーやビッグボーナスの連続で、払い戻しが追いつかなくなるという事態が発生していた。日曜という掻き入れ時を営業を休止し、各店は契約しているコンピューター・メンテナンス会社などと連携して、ひとつひとつの台の基盤チェック、ホストコンピューターの整備などを行っていた。
  営業は休止しても、舞台裏はおおわらわだったのだ。メンテナンス会社の人員は限られている。店によっては整備に十時間以上費やしたところもある。場合によっては明日・月曜日もば営業休止の店が出てくるおそれもあった。
  その事態を当日、俺は夜のTVニュースで知った。ほんの一分程度だが、要は「札幌市内のパチンコ・パチスロ店全店が臨時休業」というものだ。原因ははっきりしないが、考えられるのはコンピューターのシステムエラーではないかと言っていた。
  同時に俺は「約束」を思い出した。あの、正体不明の白頭巾の少女との、である。
  紙片を机の抽斗からつまみ出して見た。銀行名、口座番号、宛先……。
  未だに少女からあれ以来、コンタクトはない。
  総額では手許に22万円以上ある。「そうだ、これの一部を借金返済の残金に充てようか」と、思う。しかし別の考えがアタマを余切る。「パチスロの元手として全額取っておこうか」。だがそれは今後、 負けが込めばスッカラカンになってしまうだろう。
  今までそうやってどれだけの額をパチンコ・パチスロ業界に“献金”してきたのだろうか。一千万でも余るだろう。自分の給料の枠も逸脱して、親兄弟にうそを言ってはカネを工面し、サラ金にまで手を出したではないか! この案は却下だ。
タグ:騒動 葛藤
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2009年03月09日

アディクション 第2章  断罪

  日曜、小雨。午後5時30分過ぎ・・・。
  俺は込み合う男子ロッカー室で白衣を脱ぎ、白い耳あて付き帽子をはずし、私服に着替えた。
 「お疲れさまー」と、何人もの馴染みの顔に声をかけた。返ってくるあいさつの言葉もほぼ同数だ。ミタニ・コンフェクショナリー札幌工場は、今日も終業時間をむかえた。
  ことし定時制高校を出たばかりで割とイケメンな前川君は、今日も太っちょの久保君をさそい、二人で脱兎のごとくロッカー室を出ていった。今回もカラオケなのか、よくわからないけど。
 「どうする?」。
  今日の午後から仕事で手は動かしていたが、頭の中を占拠しつづけていた迷い。
  それは無論、仕事を終えてからパチンコ屋、つまりパーラーフェニックス・白石店に行くかどうかである。懐には五万円ぐらい用意した。きのう、おとといと二二万以上儲けているので気分は上々だし、「スリップした」という自責の念はあまりない。
 「いいや、やっちゃえ」・・・俺は負のエネルギーにつき動かされた。
  着替えたカラダに傘をさしてホームグラウンドに向かった。

  全体的に瀟洒な、どこかの王城を思わせるパチンコ屋の前に、人はまばらだった。表通りに面している玄関は閉まったままだ。そのひとつの前に茫然と立ちつくした。二人ほど、自分と同じ心境を味わう男女がいた。
  “臨時休業”とだけ書かれた張り紙が、雨に煙る空気のなかで淋しげにのたうっていた。
  表通りのもうひとつの出入り口に回ってみた。そこも「臨時休業」。だめだな、これは、と景品交換所の
近くにある裏口に行くのを断念した。
 「カクイチにでも行ってみるか」。独り言をつぶやく。
  そこは全国売上ナンバーワンのチェーンで割と出すので知られている。
  歩きだと20分以上かかるが、クルマなら順調にいけば3分で着ける。俺はカネがあるのをいいことに、挙手して表通りの流しのタクシーを停めた。
  何とそこも臨時休業だった。心当たりをもう一軒あたってみたが、それもだめ。
 「これはたぶん、裏で大変なことになっているのでは」
 ・・・俺はつぶやいたが、事実そうだった。
   
タグ:怪異 仕事
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2009年03月08日

アディクション 第1章  異常発生

  午後十一時、パーラーフェニックス白石店、閉店の時間。
  従業員たちが手分けして玉貸し機、メダル貸し機、両替機の中にある紙幣を集めようとしたが、それはいつもの光景とは違っていた。それぞれの機械には平均でも二十数枚の紙幣があるはずだった。
  それらはすべて枯れ葉に化けていたのだった。
  報告はすぐに店長に寄せられた。
 「そんなバカなことがあるはずがない!」
  店長の第一声。一室に集められたのは、血と汗と涙の結晶か、はたまたサラ金からのバタ臭いルートのものか、源はどうであれ、“日本銀行券”であらねばならなかった。
  それらがすべて、何の植物のものかわからないが、枯れ葉に変身していたのだ。きのうの閉店時間繰り上げ、コンピューターメンテナンスに引き続き、連日の異常だ。表向きは“システムの不具合”のため、多くのむずかる客を従業員たちが説得して帰ってもらった。あのまま営業を継続していたら、鉄球とメダルが不足していたかもしれない。だが、今度は売り上げが別物にすり替えられていたとは。
  フロア主任、アテンダントたち、十数人が十重二十重(とえはたえ)の枯れ葉のつみあげられたテーブルの前で絶句した。その沈黙をかろうじて破ったのは店長だった。
 「誰か、この事態を説明しろ。できるヤツはいないのか!」


   アディクション 第1章  「矢富健一の場合」終了です。
  どういった読後感を持たれたでしょう。突飛? 強引? 騒動はさらに拡大し、妖少女も新キャラも第2章以降で登場していきます。  また、近いうちにお会いしましょう。
タグ:怪異 魔法
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アディクション 第1章  再戦2

  込み合う店内で、一台目は「呑まれた」。
  一回ずつビッグとレギュラーを引いただけで、一万四千円の投資も虚しい。台の上部にあるチェックボタンを使って、きのうのデータを見たら、「ビッグボーナス26回、レギュラーボーナス11回」になっていたので、ちょうどいいと思ったのだが。
  斜め後ろで中年のおばさんが席を立った。一瞬どうしようかと思案したが「いいや、やっちゃえ」。
  一時間と少し、二万四千円投資したがウンともスンともいわなかった。二つの台ともにきのうに続き、『スターダスト』である。財布の中身は、すでに千円札一枚だ。
  ボーナスゲームの効果音も、きらびやかな電飾も全体的にきのうに比べれば間延びし、寂しい。きのう大勝ちした612番台も初老のおじさんが頑張っているようではあるが、苦戦している模様だ。
 「今日は敗戦だな」・・・心の内側でつぶやいて席を立った。
 全体の様子を見物してから帰ろうとした。店の奥側へ歩いていく。
 席のひとつから若い女性が立ちあがった。台にはメダルも持ち物もない。「最後の千円札で勝負だ」と気合を入れた。
 数回でリーチ目を引き当てた。それからは八連続ビッグだった。
 勝負が終了したのは午後の5時を回った頃だった。周りをぐるりと見渡すと、きのう同様、効果音と光の点滅の洪水だった。
 結局、四千枚弱を出した。逆転勝利! 元手が倍になった。
 俺はまた意気揚々と店を引きあげたのだった。 
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2009年03月07日

アディクション 第1章  止まらぬ感情

  まんじりとしない夜が明けていき、今日は土曜だ。週休の二日目。
  外は雀のコーラスだ。チュンチュンジュクジュクやっている。部屋の時計は朝六時半前。
  「やる」「いいや、やらない」を幾度繰り返したろう。
  結果は悪しきほうに落ち着いた。「呼吸・リズム・ゆとり」とつぶやく。きのうの朝にもやった自己暗示。
  TVで朝の情報番組を眺めやり、ぼんやりと食パンにジャムを塗っていたら時計は八時を回った。
 「さて」と深呼吸して、小物入れから一万円の札束を抜いて数える。十九枚。確かにある。そこから三枚財布に移し替えて、残りは机の抽斗(ひきだし)にしまった。
  パーラー・フェニックス白石店に着いたのは、それから十五分ほど後だった。
  長蛇の、ゆうに二百人を越すであろう行列ができていた。
  俺は最後尾にならんだ。
 「きのうは儲けた。ハイパー深海で四万発だからなっ」
 「オレも三万三千九十六発」
  直近の若い男ふたり組が、おどけながらのけぞってきのうの戦果を報告しあっていた。
  まだ開店まで三十分以上ある。列はますます後方に伸びている。口コミというやつだろうか。きのうは全員が勝ったと思えるぐらいだ。そして扉は開き、「貧乏人たち」は店になだれこんでいった・・・。
タグ:貧乏人
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アディクション 第1章  信仰と悪魔

  失踪して札幌や小樽のビジネスホテルを渡り歩いて、その間ギャンブルに嵌まりっ放しになったこともある。
  それまでの借金の総額が300万円に達しようとしていた頃、俺はきっぱりと悪循環から足を洗うべく、弁護士会に相談しに行ったことは先に述べた。五年前だ。
  任意整理手続きを取り、以降、サラ金からの借金はしなくなった。しかし、バイトの給料の範囲内での小スリップはちょくちょくやった。それを止めたのは神様の力だった。
  ひょんなことがきかけで実家の近くにあるキリスト教会の信者になった。バイトもケーキ工場に変えた。毎週日曜には礼拝と賛美に会堂に行き、感謝祈祷もした。それ以外の日にも教会の兄弟姉妹たちと山に登ったり、スキーに行ったりした。
  しかしそれらも今となっては昔日の思い出だ。ぼろアパートに住まいを変えてから半年程度で教会には行かなくなった。
  結局、俺は移り気な男なのだろうか。仕事も信仰も異性との付き合いも永続きしない。今日は大勝ちしたとはいえ、スリップしてしまった。
  自室、ラジカセでFMラジオのレゲエのリズムに身をまかせていると、ある種の感情のようなものがぐらぐらふつふつと湧きあがってきた。
  「俺は明日もパチスロをやるんだ」と。
  いけない。この種の誘惑に何度負けてきたことか。300万近い借金も、親とか友人・知人や職場の上司・同僚らとのぎくしゃくも、どれだけギャンブルが影響してきたというのか。しかし、悪魔はささやく。「ギャンブルはユカイだろ。ちょっとした勝ち運があれば大金が手に入るんだからな」
  
タグ:神様 誘惑
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2009年03月06日

アディクション 第1章  G・A

  A・Aには行かなくなっても、精神保健センターには二、三週に一度は通院していた。主治医はT先生。
  「今度センターの中でギャンブル研究会を立ちあげるんだけど、矢富さんもメンバーに加わらないか」と打診を受ける。
  「自信はないですけれど、いいですよ」
  「毎週火曜の夜、一時間半程度だけどいいかい」
  「はい」
  それからほどなくしてギャンブラーズ・アノニマス(G・A)は、札幌の地に産声をあげた。強迫的ギャンブラーのためのグループセラピー。もう六年も前の話だ。
  最初の一年ぐらいはまじめに通い、パチンコ・パチスロを止められた。しかしその後はスリップを繰り返した。
  診察の際、月初めに持っていく保険証を悪用してサラ金からカネを借りる身分証とした。当時は学習塾で講師のバイトをしていたから、収入はあった。それをいいことに30万円借りた。むろんそのカネはギャンブルの寺銭に化けた。二人目の彼女とも別れた。
タグ:転換
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近況報告  

  アディクション
  残りの第1章の掲載は、あと6回ほどです。
  外は風雨があれくるっています。  
タグ:ギャンブル
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アディクション 第1章  ミーティング

   そこでは週に三回ほどミーティングがあり、各曜日で集まる場所が異なっていた。集まる面々は自宅から、病院からなどで、施設から通っているメンバーもいた。ほとんどが酒で身を持ち崩した人だが、中には薬物中毒を併せもつ人もいた。
  個々から語られる内容は「心がだんだん明るいほうに向いていくこと」とか、「どん底の自分はどうだったか」とかである。テーマも司会者も日毎に変わるが、変わらぬものもある。ミーティングの終盤で全員の口から唱和される「祈りのことば」だ。それは・・・
  神様、私にお与えください
  変えられないものを受け入れる平安を
  変えられるものを変える勇気を
  そして、この二つを見分ける賢さを

  メンバー
の口から語られる内容はその匿名性から詳述できないが、過去の苦い経験を振り返る懺悔のようなものがほとんどだ。
  たとえば、ある男性は「入院していた病院から逃げ出そうとして全力で廊下を走ったのはいいが、つまづいて転び、肘をしたたか打った」。ある女性は「若い頃輪姦され、子供を身籠ってしまい、堕胎せざるをえなかった」だとかである。酒に関しては「おれの酒に文句を言うな」と、自分の妻に虚勢を張っていたとか、「十数時間の連続飲酒などをして、二十回以上も入院した」など。中には涙声で「本当に家族にはひどいことをした」と詫びるメンバーもいた。
  俺がA・Aに行かなくなったのは、ある事件がきっかけだった。本来は別の使途だったのだが、メンバーのひとりから二万円を借りたのだ。だがそれはミーティングの帰路、もっとも忌むべきものに化けてしまった。パチスロの遊戯費用に。
  その二万円は、返すのに窮したのを今でも憶えている。 
タグ:中毒 匿名性
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2009年03月05日

アディクション 第1章 20の質問

   俺の経歴でどうしても省けないパートがある。それは自助グループに参加した経験があることだ。
  三十を過ぎてから「精神保健センター」に、両親の強い勧めで通いはじめた。そこで自分は“病的・強迫的”ギャンブラーなのだということがわかった。どうなると“病的・強迫的”なのか・・・20の質問。
1.  □ギャンブルのために仕事や学業がおろそかになることがありましたか?
2.  □ギャンブルのために家族が不幸になることがありましたか?
3.  □ギャンブルのためにあなたの評判が悪くなることがありましたか?
4.  □ギャンブルをした後で自責の念を感じることがありましたか?
5.  □借金を払うためのお金を工面するためや、お金に困っているときに何とかしようとしてギャンブルを
    することがありましたか?
6.  □ギャンブルのために意欲や能率が落ちたことがありますか?
7.  □負けた後ですぐにまたやって、負けを取り戻さねばと思うことがありましたか?
8.  □勝った後ですぐにまたやって、もっと勝ちたいという強い欲求を感じることがありましたか?
9.  □一文無しになるまでギャンブルをすることがよくありましたか?
10. □ギャンブルの資金を作るために借金をすることがありましたか?
11. □ギャンブルの資金を作るために、自分や家族のものを売ることがありましたか?
12. □正常な支払いのために「ギャンブルの元手を」使うのを渋ることがありましたか?
13. □ギャンブルのために家族の幸せをかえりみないようになることがありましたか?
14. □予定していたよりも長くギャンブルをしてしまうことがありましたか?
15. □悩みやトラブルから逃げようとしてギャンブルをすることがありましたか?
16. □ギャンブルの資金を工面するために法律に触れることをしたとか、しようと考えることがありました
     か?
17. □ギャンブルのために不眠になることがありましたか?
18. □口論や失望や欲求不満のために、ギャンブルをしたいという衝動にかられたことがありましたか
    ?
19. □良いことがあると2〜3時間ギャンブルをして祝おうという欲求がおきることがありましたか?
20. □ギャンブルが原因で自殺しようと考えることがありましたか?

  以上、20の質問で7つ以上当てはまる人は、病的・強迫的ギャンブラーの可能性がきわめて高いという。俺の場合ほとんど全部当てはまっていた。
  “症状”を緩和・抑制するためにはグループセラピーが現在もっとも有効で、早道とされるが、根本の治療法はないという。だから俺はまず、アルコホリック・アノニマス(A・A)につながった。自助グループのひとつに。    
タグ:強迫 病的
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2009年03月03日

アディクション 第1章  笑い泣き

  俺は意気揚々とパチンコ屋を後にした
  何せ18万5千円近くを儲けたのだ。だがそこにふと翳(かげ)が差した。
 『勝つには勝った。しかしこれはあの千円札のパワーではないだろうか? それに周りもかなり出していた。いくら各台の設定が甘くなっていたとはいえ、パチンコ台までもが……。何かあったのでは』
  確かにフトコロの中身は20万円を超えて暖かくなった。しかし、あの白頭巾の少女は、
 「勝ったら、全額を社会福祉施設に寄付せよ」
  と言っていたではないか。でも、相手は今日この大勝ちを知っているだろうか。知っているはずがないのだ。
  景品を換金してから、ずいぶんとここまで周りをキョロキョロしながら来たものだ。同年代の子供すらいなかったではないか。
  時間はもう午後7時、夜の帳(とばり)が降りてからしばらく経つ。銀行のキャッシュディスペンサーも振り込みの時刻を過ぎているだろう。
  ・・・思案しているうち、安アパートに着いた。
  誰ひとりとしていない部屋に明かりをつけ、ベッドに仰向けになる。
  ブルゾンの内ポケットから財布を出した。
  ぶ厚かった。重かった。中身をひっぱり出す。一万円札が19枚と千円札が10枚あった。あとはジャラ銭だ。
  「あの子は勝利の女神ではないのか。いや待てよ、とんでもない禍神(まがつかみ)かも? 『運をねじ曲げて落とす』 と言っていた。パチンコ屋だけがそうなればいいが、自分に火の粉がふりかからないという保証は一切ないぞ」・・・警戒感が頭をもたげる。
  ぐううーっ。
  腹の虫が啼いた。今日は朝食を簡単に済ませて以来、何も食べていないのだった。
  歩きで五分足らずのところにホカ弁がある。「今晩は鰻弁当だな」と、机上の小物入れに一万円の束を折ってしまいこみ、財布の中身を千円札だけにして再びアパートを出た。
タグ:魔法 疑い
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アディクション 第1章  店の奥で

   パーラーフェニックス札幌白石店・店長室・・・。
 小型のTVモニター八台と出玉などを統括するホストコンピューターがある店の奥。
 もう一時間以上前から二人の男、店長とフロア主任とが顔を突き合わせていた。共通の議題は「昼前から出玉と出メダルが多すぎる」である。
 「台の設定はきのう深夜にすませています。ゴト師が基盤を替えた形跡もありませんし、やはりホストコンピューターに異常があるんでしょうか」
 主任は部屋の一角を指示した。まだ三十前の若い手で。
 「メンテナンスは一度ホストコンピューターの電源を落としてからじゃないとできないのは主任も知ってるな。客には停電だと偽ってでもメンテナンスしたほうがいいのかな」
 四十過ぎの店長は、赤ネクタイの上に伸びた首筋の汗を手でぬぐった。
 「はい、このままでは店は大赤字です。早めに閉店したほうが」
 店長室の掛け時計は午後7時前だった。換金額は午後2時にはすでに一千万をオーバーし、午後5時時点で一千六百万の大台に達していた。その内容は机上のプリントアウトされた用紙に克明に記されている。
 「よし、九時閉店だ。北光システムに連絡して、ただちにメンテナンスをしてもらう」
 店長は机上の受話器を取った。
 
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2009年03月02日

アディクション 第1章 気分の高揚

  その日は結局夕方の六時ぐらいまで、46回のビッグボーナス、19回のレギュラーボーナスを引当て、俺は大勝ちした。
  自分だけでなく、ひとつ向こうやそのまた向こうでも千両箱二つや三つはあたりまえだった。
  「さすが花金スロ……出し方がちがう」
  最初は軽くそう思っていた。
  俺は大千両箱一箱と千両箱三箱分に相当するメダルを獲得した。
  台車を借り、中央通路にある計数機までカコカコ押していく。
  すでに夕食の時間帯だが客は多く、ひとつの計数機の前には遊戯し終えた男女が一人ずつ。
  自分の番になり、大量のメダルを流し込んでいく。
  ジャラジャラシュワシュワという音は三、四分は続いたろうか。
  9.200余枚! 今までで最高の勝ちだ。その数字が記された感熱紙を大切そうにカウンターに持っていった。
  中央通路を往く間、両側を見るとあちらこちらで大当たりが連発している様子で、パチンココーナーも大盛況だった。
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アディクション 第1章  再戦

   駈け足の集団と行動を共にして、俺は四年ぶりに“元ホームグラウンド”の玄関をくぐった。
  フトコロには17.000円。少女からもらった、たった千円だけでは物足りないし心配なので、自前であと16.000円を加えた。
  パチスロコーナーでは以前自分がよくやっていた機種はなかった。そのかわり、近年話題の「スターダスト」の一台に狙いを定めて腰かけた。
  時計は、開店前三分を示している。愚行だとわかってはいるが、やらなくてはいけない。
  「午前九時、パーラー・フェニックス開店のお時間でございます。皆様、ご存分にお楽しみくださいませ」・・・時報のチャイムとともに、朗々とした女性の店内アナウンス。
  俺は財布を開けて、一番手前にあった千円札をつまみ出してメダル貸し機に入れた。あの少女からのものだ。
  何の変哲もなく、ジャラリとメダルが50枚出てきた。
 自分が腰かけているのは店奥の20台ほどある同機種の列にある、中央通路から見て三台目の機械だ。周りはすでに五、六人が機械の前に陣取っている。
  機械のメダル挿入口にさっそく三枚を入れる。くるくると三つのスロットのドラムが回転して、左側から目押ししていく。きゅいっきゅいっきゅいっという効果音がしてドラムはすべて止まった。
  何と、初回でリーチ目が来た。
  機械のドラムの面の左下にあるランプが点灯する。
  それからは一枚ずつメダルを挿入口に入れてスロットを回し、五回目でビッグボーナスである☆が三つ揃った。たちまち数百枚というメダルが払いだされる。周囲も俄然にぎやかになってきた。自分と同じビッグボーナスの効果音で、キュルルーン、キュルルーンが谺(こだま)する。 
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2009年03月01日

アディクション 第1章 貧乏人の遊戯

  曇り空のもと、行列の人数は七、八〇はあるだろうか。
  スポーツ紙を読みながら、缶コーヒーに口をつけながら、タバコをふかしながら、あるいはウォークマンのイヤホンに耳をかたむけながら店の扉が開くのをまちわびている。四分六で男のほうが多いだろうか。
  腕時計に目をやると、8時40分をいくぶん回っている。開店まであと20分を切った。
  結局、今回スリップすることは誰にも相談しなかった。職場の同僚で仲の良い友達には「以前、自分はパチスロ好きだった」ことは告げているが、「それが元で借金をこさえた」ことは隠している。
  たぶんこの行列の中にも、パチンコ・パチスロ狂で依存症患者が何人かまぎれているにちがいない。
予備軍を入れたら数は倍以上にふくらむだろう。
  そして全員に共通していることだが、真のカネ持ちは一人としていないだろう。カネ持ちは往々にしてけちだから先行き不透明なギャンブルにかまけているよりも、着実かつ確実な資産運用をしているだろう。
  ギャンブルは貧乏人がする一時しのぎの遊戯ではないか。
  当たる当たらぬで一喜一憂し、当たったら財布の中身がふくらんで、「臨時カネ持ち」の気分にひたれる。そしていつのまにか気がついたら、財布の中身はスッカラカンになっている。ますます貧乏になっていくのだ。
  行列が前方に移動した。開門だ。俺は行列の中間あたりで、ぞろぞろと前の集団の動きに倣う。今日はパチスロをやる。しかも「花金スロ・ディ」なのだ。列の動きが一時止まった。先頭では警備員が入場整理している。
  電気仕掛けの自動ドアを除けば、どこかの王城の玄関のようだ。四、五年前までは、今のようによく並んだものだ。ここパーラー・フェニックスに。
posted by はむじの書斎 at 20:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アディクション 第1章 病的ギャンブラー

  病的ギャンブラーはたとえ働いて給与を得ていたとしても、その枠内で遊ぶことができない。
  生活するためにどうしても必要な金銭さえギャンブルに投資してしまう。
  空っけつになればサラ金、果ては闇金の門をたたく。支払いに窮せば横領・強盗だ。
  どれだけの人数がそれらに手を染め、刑務所送りになったかわからないほど。
  少女は帰っていった。
 「勝った金額は全額、紙の口座に振り込んでね」と念を押すのを忘れず。
  俺は玄関口にしばらく茫然とたたずんだ。
  まったくもってあの少女は何者か見当もつかない。しかし、自分の現状をずばり見抜き、パチンコ業界に一泡吹かすためなのかどうか知らないが、その道具として一見何の変哲もない千円札を一枚よこした。
  口座番号が控えてある紙の文字は手書きで端正だ。それと札とを右手に握りしめて、俺の視線は少女の去った玄関扉をしばらくさまよっていた。それからきっかり一週間が過ぎた九月某日・・・。
  丸三年以上の間隔を置いて、俺の体はパーラー・フェニックスの開店前の朝の行列にまぎれていた。
  妖少女の来訪からここまでは心の葛藤がなかったわけではない。いくら他人からスリップ(依存の対象であるものに再びのめりこんでしまうこと)を勧められたとはいえ、その甘言に乗り、軽々しくまた地獄門の扉を自分であけていいものなのだろうか。債務整理の残金があと10万円を切って、やっと苦しみから解き放たれそうなのに、再び……。
 そして、あれから少女の来訪はなく、連絡すら来ない。 
posted by はむじの書斎 at 12:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月28日

アディクション 第1章 妖少女の来訪3

   俺は千円札と紙片を受け取った。くるりと後ろを向いて窓際に歩いていき、千円札を太陽光にかざしてみる。透かしもあるし、手触りも普通の千円札と変わりがなかった。一方の紙片には銀行名と口座番号と宛名「知的障害者訓練施設 清華園」とあった。
  「どうなるんだ、これで」
 狐につままれたまま千円札を顔の前にかざしながら、少女に向き直った。
  「使ってのお楽しみというところね」
  「言っとくが、俺は今ギャンブルをしていない。もう三年にもなる。病的ギャンブラーにまたしなさい、穴に落ちろと君は言ってるんだぞ。わかるか」
  少女の顔は一瞬困惑にしずんだが、すぐさま自分の瞳を見詰め返した。
  「次の一回があなたの人生最後のギャンブルになる、と言ってもやらないの?
  「えっexclamation&question

  全国で年間の売上げが20兆円はいくであろうパチンコ業界・・・1970年代後半では息も絶え絶えだったのが、「フィーバー」の登場により、大いに盛りかえした。
  スロットルマシンの機能を付加し、数字や図柄がそろうことで「大当たり」するのだ。
  極端な例を挙げれば、500円の投資で5万円以上も稼ぐことができるが、逆にツイていなければ5,6万円の散財は覚悟しないとならない。パチスロの登場は1980年代だが、こちらも基本は同じ。ただし、普通は出資額は1000円からになる。
  コンピューター仕掛けの集金マシンは、日々ギャンブラーから銭を巻き上げつづけている。その平均額は客一人につき1万5,6千円になるという。仮に一日、300人客が入ったとしたら、450万円以上の売り上げになる。勝った客に払い戻してもこの金額だ。それがひと月〜一年と続いていけば莫大な額になることは容易に察しがつく。
posted by はむじの書斎 at 21:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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