2009年06月27日

ユカリ 由香里  終章 再会2

  由香里は紙コップの中の、ぬるくなったコーヒーをひと口飲んだ。
  彼女は、「気を悪くしないでね」と前置きしてから、
 「あなたは本来死んでいたのよ、さっき」
  と、いった。
  ぼくは口の中のコーヒーがはばけて、咳込んだ。「うそだろ」と、悄然とした気分でつぶやく。
 「未来を、事情のわかっていない人に説明するのは骨が折れるわ。心の備えができていない人には、とくに」
  ゆるやかなカーブをえがく大窓に面したカウンター席。彼女は外の人と車の往来に目を移し、小雪の降りしきる街の風景を鑑賞した。
  その間はぼくも口を閉ざし、“ユカリ”が超能力少女だったことを思い出した。
 「あなたはあそこで死に、私の結婚相手として転生するはずだった…。だけど、こうなってしまった以上、もう無理」
  由香里は複雑な表情であった。それは、どちらかと言えば「物悲しい」という形容が似つかわしい。
  ぼくは驚愕でアゴをはずしはしなかった。逆に、すべてを受け入れる気になっていた。彼女のもつ艶然とした雰囲気でそうなったのだろうか。
 「どうしてぼくを…、ぼくを助ける気になった?」
 「あなたは、あの納屋にじぶんをかえりみずに来てくれた、あんな目に遭ってまで私を助けてくれた…。だから幼な心に誓ったのよ。『耕に何かあったら、今度はかならずわたしがたすけてあげる』って」
  胸が熱いもので満たされるのを、ぼくは今まででいちばん強く感じた。言葉なんていらなかった。
ラベル:恩返し
posted by はむじの書斎 at 17:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
RSS取得
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。