2009年06月21日

ユカリ 由香里 第6章  回復2

  9月13日、夕刻・・・
  おふくろはすでに北海道に帰り、ぼくは病室で静かに参考書をめくっていた。「退院まであと二、三日」と主治医からは言われていた。
 「おっす! 耕」
 5歳の少女が入ってきた。
 「おう」
 ぼくとユカリは、片手をあげながらあいさつした。4度目のお見舞いだった。
 「どした? 今日は」
 彼女の母が入ってくる。
 「私たち、こんど引っ越すことになりまして、そのごあいさつに参りました」
 真理は改まった態度で、折り目正しく一礼した。
 「そうですか。よかったですね。埼玉に戻られるんですね」
 一抹の淋しさをこらえて答える。そして、合格祈願のお札をもらった。
 「ユカリが、何かいいたいことがあるそうで…」
 「何でしょう、姫君さま」
 「あのね・・・おにいちゃん。らいねんの春、すてきな人に出会うはずよ。その人はあたしとかんけいがある女の人で、その人のいうことを聞けば、幸せになれると思うの」
 「これ、この子ったら、またおかしなことを…」
 母親は困惑した。
 「いいんです…。それで、ユカリと関係がある人って誰なんだい」
 軽い調子で尋く。
 「うーん、よくわかんないけど、きれいな人みたい」
 「それだけ?」
 「うん…」
 「じゃ、その時まで首をながーくして待てばいいんだね」
 「でも、それじゃつるになっちゃうよ」
 彼女の母もぼくも思わず吹き出した。同じ病室の人たちもにこにこしている。彼女は当部屋のアイドルの座を確保していた。
 「ほんとうにいろいろとお世話になりました。私もこの子も、ご恩は一生忘れません」
 母親は深々と一礼した。ユカリもちょっと頭を動かして、母の挙動をまねた。
 「勉強のほうはどうなさるの?」
 「退院したらすぐ、本格的に再開です。もっと涼しくなってくれるといいんですが」
 「がんばってくださいね。合格するよう、祈ってますから」
 「ありがとうございます」
 「がんばってください」
 ユカリは僕の頬にチューをした。
 二人が病室を出ていく。さわやかな風が通り抜けていったような気がした。
 
タグ:お見舞い
posted by はむじの書斎 at 13:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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