2009年06月15日

ユカリ 由香里 第6章  驚愕

  午後2時半ごろ、ぼくは生田近くの商店街を走っていた。前方で薄青のつなぎを着た男が、自動販売機からタバコを買っている。その男の顔を見たとき、ぼくは天と地がひっくり返らんばかりだった。
  夢に出てきた男、そのものずばりだったからである。
  男がタバコを胸ポケットにしまい込んで、くるりと背をこちらに向けると、ぼくはそいつを尾行した。
  男は表通りから角を右に折れて、「中川モータース」と、看板が出ている車の修理屋に入っていった。
  脳裡の電球に明かりが灯った。
 「もしや、こいつがユカリの誘拐犯?!」
  物証は何もない。えも言われぬ不思議な電流が走って、そう思った。
  運がいいことに、修理屋のはす向かいに喫茶店があった。
  ぼくはそこの窓際の席に陣取り、結局4時間近くもねばった。そこでやっつけたのはアイスコーヒー2杯と3冊のマンガ本だった。張り込みしながらだったから、マンガは心ゆくまで鑑賞できなかったが。
  夕刻、男は3人の従業員とともに、そこから出てきた。
  そいつがバイクのエンジンをかけたとき、ぼくもまた愛車にまたがっていた。
  オフロードタイプのバイクは丘の坂道を登っていった。
  ぼくは全力で愛車を漕いだが、先行するバイクの馬力にはついていけず、急な坂道の途中で落伍した。
  あえぎながら愛車を押す。左手は住宅街。右手は雑木林である。一度だけこのへんに来たことがあるが、まだわずかに農地があったと思う。夕闇が訪れていて、ちょうど街灯に黄色っぽい光が入ったところだ。
  道が下りになる。丘ひとつを登りきったことになる。
 「だめかあ、やっぱりバイクに追いつけない」
 と、嘆いたとき、右手の林の奥に、納屋のような建物があるのが目に入った。なんと、追跡していたバイクがその前に停まっているではないか。
  ぼくはその入口から、そっと内部に踏みこんだ。
ラベル:張り込み
posted by はむじの書斎 at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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