2009年06月14日

ユカリ 由香里 第5章  小旅行 

  何もしないより、何かした方がましだった。
  ぼくは朝日を浴びながら駐輪場に行き、愛車のマウンテンバイクのチェーンを解いた。
  小旅行の始まり。きのうの酒がまだ残っていて脚がよろけたが、めげずにペダルを漕いだ。
  いくつか角を折れて世田谷街道に入る。車の渋滞。朝の清爽な冷気ではなく、汚れた排気ガスをたっぷりと吸い込んだ。
  道路事情の改善が追いつかないのをわかりきっていながら、ひたすら車の増産に走った企業と、それらを嬉々として購入した「お客様」の責任だ。
  そんな問題意識が頭の中を占領する余地はなかった。それ以上の心配ごとがあったからだ。身体もしんどい。
  玉川学園、柿生を抜け、百合ヶ丘へ。車はのろのろだが、こっちはちょっとの道幅があるだけで大丈夫だ。渋滞で渋面のドライバーたちの車をゴボウ抜きしていくことだけが、せめてもの快感だった。
  両脇に多摩丘陵が迫り、残暑の風が竹林をゆるやかにかき回す。
  啓のアパートの近くを通った。訪れる気がしない。ガス爆発・・・一階の住人はケガだけですんだようだが、そのとばっちりで親友は死んだ。何てこった。
  ぼくは多摩川に出た。JR南武線と小田急線が交叉する鉄橋を見て、川べりを愛車を押してあるく。
  腹が減っているのにようやく気がついて、コンビニからおにぎり二個と冷えたウーロン茶とを買ってきた。コンクリートの護岸に腰を下ろして、遅い朝食を摂った。川面を渡る風は、家で扇風機に当たるより爽快だ。
  そこでしばらく物思いにふけってから、ぼくはようやく重い腰を上げた。
 「帰ろう」
  そう思ったときはすでに、太陽は天の一番高い座から降りようとしていた。
ラベル:渋滞 多摩川
posted by はむじの書斎 at 15:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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