2009年06月06日

ユカリ 由香里 第4章  郷里で3

 「なあ、耕、二次会行こうや。ひさしぶりに会ったんだからよ」
 相変わらず誘うのがうまい。
 「どうすっかなあ」
 ぼくは、思わせぶりにとぼけた。
 結局、カラオケ付きのスナックみたいなところに行った。
 二十数名の大所帯が、ボックス席を占領してわいわいやる。ぼくはその末席でうすい水割りをちびちびやっていた。遠田さんは一次会だけで切りあげており、そこにはいない。気がつくと、隣に青池さんがいた。彼女は遠田さんと仲がいい。
 話題は急遽、ぼくのマドンナのことになった。
 「美智子ね、失恋したばっかりなの」
 何が言いたいんだろう。
 「私ね、知ってるのよ。迎君が美智子に気があったことぐらい…」
 「そうなの?」
 ぼくは女言葉で答えた。
 「美智子は、ほんとは迎君のこと、好きだったんだって」
 彼女はタバコを円い灰皿でもみ消した。
 ふつうだったら、両手を挙げてバンザイしていただろう。
 「…浪人中だし、友達にも不幸があった。だから時期が悪いよ。つきあうんだって、こっちから東京だって、距離が離れすぎてるし…」
 「迎君は美智子のこと嫌いなの?」
 「…いや」
 「だったらいいじゃない。男のくせに、何もじもじしてるの。一回ぐらい会ってあげてもいいでしょ」
 「迎、歌え!」
 正面にどっかりと腰を下ろしていた塚越から声がかかった。
 「いいって、いいって」
 ぼくは両の手のひらをかざし、「ダメ」のポーズをした。
 「むかえ、むかえ!」
 事もあろうに、奴はぼくの苗字を連呼しはじめた。周りの男どももハモる。
 ぼくはしぶしぶ、手渡されたリモコンから曲を発信した。
 「おっ、迎君。オハコは何かな」
 ぼくは宴席の端のステージに立ち、チャゲ&アスカの『天気予報の恋人』を歌った。ボックス席のみんなは歌よりも会話に夢中で、最後に拍手されただけだった。何やってんだか、喪中の男が。
ラベル:二次会 カラオケ
posted by はむじの書斎 at 16:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 連載小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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